多額の財産を相続しても、相続税が払えず、想定していた通りに相続できない可能性があります。もし払うことができたとしても経済的に打撃を受けてしまい、その結果「相続貧乏」と呼ばれる状態になることもあります。
今回は、相続税が払えない場合の対策と、一時的に払うことができない人が損をしないために知っておくと役に立つポイントを紹介します。
相続税が払えない状況とは
まずは、相続税を払うことができなくなる状況について説明します。
そもそも、相続税とは
相続税とは、遺産分割の協議や遺言書により、被相続人から相続財産を受け取った側にかかる税金をいいます。
所得税を支払いながら稼いだ財産に対して、さらに相続税が課税されている状況をさして、2重課税といわれることもあります。そのため、シンガポールや香港などのように、相続税がない国もあります。
日本でも、財産を引き継いだら、そのすべての相続財産に対して、相続税の支払いが必要になるということはありません。
例えば、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や配偶者の税額軽減(最大1億6,000万円)と呼ばれる制度により、非課税となる範囲があります。負の財産といわれる借金や葬式費用も控除できます。
相続税は、相続財産がこれらの非課税となる範囲を超えた部分に対して課されます。
相続税の納付方法
相続税を税務署へ納付する方法は3種類あります。
- 現金での一括納付
- 延納(相続税を分割で納付する方法)
- 物納(相続税を現金以外の財産で納付する方法)
1.現金での一括納付
原則として相続税は、納付期限までに税務署に現金で一括して納付をしなければなりません。
しかし、相続税が多額になり一括で支払えない場合には、以下の、延納や物納が認められる場合があります。
2.延納
延納する場合に必要な要件は、次の通りです。
(1) 相続税額が10万円を超えること。
(2) 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
(3) 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること。
ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。
(4) 延納申請に係る相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。
国税庁「No.4211 相続税の延納」
分割納付の期限は、原則として5年以内です。不動産等が相続財産の大部分を占める場合は最長で20年以内とすることができます。
延納のメリットは、相続税の金額が大きい場合に、一括でまとめて払わなくていいことです。一方でデメリットは、延納の期間に応じて、税務署に遅延した分の利息を支払わなくてはいけないことです。
3.物納
物納をする場合に必要な要件は、次の通りです。
- 延納でも支払うことが難しい場合
- 「物納申請書」を申告期限までに税務署に提出し税務署の許可を得ること
- 物納することが認められている物で、その順番に従って納めること(物納する場合は、換金できる可能性が高い財産が優先適用されるため、上場有価証券、不動産、非上場株式、動産の順番となっています)
物納することのメリットは、相続税の範囲内は、物納による譲渡に所得税がかからないことです。
デメリットは、物納財産は相続税評価額で計算されるので、一般的な取引金額の80%相当額で評価されることです。そのため、売却してから相続税を納付する場合よりも、損をする可能性があります。
相続財産に対する現金以外の割合が大きい場合
結論として、不動産が相続財産の大部分を占める場合に、相続税を現金で用意して支払うことができなければ、「相続税を払うことができない」という状況に陥ります。
もちろん、先述のように延納や物納のような対策もありますが、適用要件に該当していないことも考えられます。
基本的には、現金以外を相続することにより相続税が払えなくなるケースがあると考えておきましょう。
なお、不動産を相続する場合は、借入金や管理コストも相続することになるため、こうした支出によって現金をさらに要することもあります。
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相続税が払えないとどうなる?
相続税を払えない場合、「税務署(国)に対する支払いだから遅れても大丈夫だろう」と考えていませんか。
税金を遅延、滞納した場合のペナルティは厳しいため、注意しましょう。
相続税が払えない場合は差し押さえの可能性も
相続税の申告期限は、被相続人の相続の日から、10か月以内です。また、納付期限も同様です。
納付期限内に納付ができなかった場合、「延滞税」と「無申告加算税」がかかります。故意に申告しなかった場合や悪質と認められる場合は、より高額な「重加算税」がかけられる可能性もあります。
納付期限に納付できなかった場合、税務署から催促の連絡がくることがあります。相続税を払わないままでいると、最終的には、税務署(国)に相続人の財産を差し押さえられ、その財産を没収されてしまいます。
法律上、最短のケースで、約1か月で差押えの手続きが可能です。具体的な差し押さえの手続きは、次のようになっています。
- 督促状
- 税務署からの電話・訪問による財産調査など
- 差押予告書
- 差押え
ただし、税務署からの催促の連絡に対して、納付の意思があることを真摯に説明することによって、税務署の担当者の対応も変わります。相続税の支払いが不可能とわかったら、すぐに税務署に相談しましょう。
負債が多ければ相続放棄も
相続財産の中に資産よりも、借金が多くある場合(債務超過の場合)には、相続放棄をすることができます。
相続放棄とは、相続や遺言にかかる相続財産の権利をすべて放棄することです。もちろん、相続放棄をした場合は、現金、不動産や有価証券など正の相続財産も引き継ぐことができません。
被相続人が債務超過や破産寸前の場合は、3か月以内に相続放棄の手続きを裁判所でおこないましょう。
ちなみに、相続財産が負債よりも大きい場合に、相続税を払うことができないからと相続放棄をすると、当然損をします。相続放棄を検討する場合も焦らずに、専門家の意見を聞くことが大切です。
融資を受けて対処する
相続財産に現金預金なく、支払いできない場合は、相続財産を担保にして、金融機関で融資を受けることも考えられます。
その際は、延納と融資のどちらを選択することが有利になるかを考える必要があります。
延納の場合の利子税は、相続財産に占める不動産の割合によって異なりますが、概ね年利で0.2%~1.3%程度です。
この割合よりも融資の利率が低いのならば、融資を受けることが有利になります。ただし、銀行などの金融機関で金利が低い融資ができる場合でも、手数料やその他経費を総合的に判断して検討をしましょう。
上手に相続する方法とは
相続税はもっとも節税が可能な税金といわれています。相続税法やその他の方法を有効に利用しましょう。
非課税枠を有効に使う
相続税法には、相続税がかからない非課税となる枠があります。
1.配偶者の税額軽減
「配偶者に対する相続税額の軽減」という制度を、配偶者の相続税の申告のときに使えます。
配偶者の相続でもらえる財産が、1億6,000万円以下である場合には、一般的には、配偶者に相続税はかかりません。
被相続人の財産形成は、配偶者と共同でなされたと考えられます。そのため、配偶者の相続後の生活を維持するという考えのもと、配偶者は相続税で優遇されています。
2.小規模宅地等の特例
「小規模宅地等の特例」とは、その自宅など土地や建物の評価額を一定の面積まで、最大80%減額することができるというものです。
この特例の適用を受けるための主な要件は、相続前後の利用者(取得者)と利用状況により定められており、その両方を満たす場合に適用ができます。
不動産を取得する相続人は、この特例の適用を受けることで、相続税を大幅に圧縮することができます。そのため、相続が発生したらこの特例が適用できるかどうかを、生前に確認することが大切です。実際に相続が発生した際には、特例の適用が受けられるように遺産分割をするのが、相続税節税の観点では、適切です。
3.相続税の基礎控除額
相続の場合、被相続人の相続財産が最低3,600万円以下の場合(相続人が1人の場合)は、相続税は一切かかりません。これは、「相続税の基礎控除額」というものがあるためです。
「相続税の基礎控除額」は次の計算式で計算されます。
4.生命保険金等に対する非課税
被相続人の相続により支払われる生命保険で一定の要件を満たすものには、非課税の枠があります。
上記で算出された金額を、支払われた生命保険金から控除することができます。具体的には、相続人が2人の場合は次のようになります。
このケースでは、支払を受けた保険金が1,000万円を超えている場合に、相続税が課税されます。
相続人で話し合って納税資金分だけ一部遺産分割協議を行う
相続において、もっとも問題になりやすいのは、遺産分割です。「遺産分割の協議でもめたので、相続税が確定しない」という場合も多くあります。
その場合の簡単な解決方法は、遺産の一部分割です。
相続では「とりあえず相続税の納税金額分だけ、遺産分割協議を行う」ということが可能です。相続により、口座が凍結されてしまいますが、一部分割することによりその連結を解除することができます。
相続税は仮計算により、納付し、申告を済ませその後にゆっくりと残りの財産について、遺産分割の協議をすることができます。
貯金がない相続人には「リースバック」という選択も
不動産のみ取得した相続人の方で、貯金がないという場合には、「リースバック」をすることで、相続税の納税資金を確保し、また相続後も自宅に引き続き居住することが可能となります。
リースバックとは、自宅などの不動産(土地、建物)を不動産会社などに売却し、その売却した不動産を賃借することで、引き続き居住することができるという取引です。
不動産を取得した場合、相続税の納税資金の負担が重くなりますが、リースバックをすることにより、その不動産の売却資金を相続税の納税資金に使うことができます。また、リースバックには、金融機関から相続税の納税資金の融資を受ける場合のような厳しい審査などがないため、比較的利用がしやすい取引です。
相続した不動産を売却することのメリットは、「取得費加算の特例」が使えることです。
取得費加算の特例とは、相続により取得した自宅などの不動産を、その相続税の申告期限から3年内に、売却をした場合には、その譲渡所得(所得税の申告)にかかる取得費に相続税額の一部を加算することができるという制度です。
要約すると、「相続により不動産を取得した時に相続税がかかっているため、その不動産を譲渡したときにかかる所得税について、一部税金の負担を軽減してもらえる」という制度です。
ちなみに、譲渡所得は、不動産を売却して譲渡益が生じた場合に、その譲渡益に所得税が課税されるというものです。その譲渡益は売却代金から取得費や譲渡にかかった費用を控除して計算します。
ぜひ、自宅を相続で取得したが、貯金がないので相続税の納税資金にお困りの場合は、「リースバック」をご検討ください。
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